雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

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演劇『全国学生オンライン演劇祭』の感想

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 3月28日、劇団ノーミーツによる『全国学生オンライン演劇祭』の決勝生配信が行われました。
 オンラインのイベントではありましたが、非常に熱気があり、その感動をしたためておきます。

イベントの概要

 2020年はコロナ禍ということで、多くの学園祭や文化祭が中止となりました。
 発表の機会を失った演劇部は、どうすればいいのか?
 ということで、劇団ノーミーツが立ち上がり、学生であれば誰でも応募可能というオンライン演劇祭を企画されました。計87作品、総再生時間1519分が集まり、その中から5作品が選出され、3月28日、生配信されました。詳しくは公式サイトをご覧ください。

 尚、決勝生配信の様子及び、惜しくも決勝に残れなかった予選作品もアーカイブされ公開されているので、今からでも見ることが可能です。

オープニング対談

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 11時半開場、12時開幕ということですぐに始まるのかと思いきや、12時からはゲストとして平田オリザ氏を招いてのオープニング対談「平田オリザさん、これから演劇ってどうなるんでしょうか?~オンライン演劇に見る演劇の新たな可能性~」が始まり脱力しました。
 あまり興味が感じられなかったので、違うことをしながら片手間に見ようかなと思っていたのですが、10分を過ぎたくらいから姿勢を正してメモを取りながら聞いていました。本来はお金を払って拝聴すべきレベルの、価値のある話だったからです。
 以下、私が特に関心を覚えた箇所を紹介させてください。

・韓国には演劇を学ぶことのできる学校が多く、日本の20倍もある。そういった土壌がある脇役も上手い。日本も全体的に盛り上がっているときは良かったが、ブームが去り、貧富の差が拡大し始めたことで衰退が始まっている。学びの座がしっかりしていないと、衰退しきってしまう。
・海外の専門学校ではアートと観光や、アートとサービスの両方が学べる。これらふたつは結びついているから。たとえば豪華客船に乗り込み、毎日公演して、公演が終わったらサービス業に励み、その間にお金を貯めて、帰国したら色々なオーディションを受けて活躍のステージを上げていく。日本の演劇は観光と紐付いていないから呼び込みが上手く行っていない。
・チケットを買って劇場に足を運ぶ文化はやがてなくなる。そもそも、この文化は近代的で、かつてはパリ、ロンドン、江戸、大阪でのみ見られたもの。いずれはスポーツジム化するし、一部はオンライン化する。重要なのはチケット文化は普遍的なものではないということ。今の若い子は、生まれたときからそうだから演劇=チケット文化と勘違いしやすいが、そんなことはない。
・今でこそ、どの美術館にもビデオアートがあるが、これだって最近のもの。1982年に寺山修司と谷川俊太郎がビデオで往復書簡をしたのがはじまり。
・大学生の頃にケータイがなかった劇作家は、演劇にケータイを取り入れることに苦悩した。たとえば『ロミオとジュリエット』は時間差によるすれ違いを描いた作品だから、時間と空間の壁を取っ払うケータイがある世界観では成立しえない。しかし、学生時代からケータイを使っていた劇作家ならば、無理して取り入れるまでも、しぜんとケータイが取り込まれた作品を作る。オンライン演劇が真に完成するのも、いま学生の子がプロになってから。
・これからの演劇は観光と紐付いてショービジネス化する。しかし、同時に小劇場で裾野を広げたり、先端研究も必要。たとえばライオンキングの衣装は、先端研究がなければ生まれなかった。
・東日本大震災の直後、学生の劇は不条理ものが多かった。たまたま東北にいなかったから生き残ることができたという、生きることの偶然性を直感したからだと思う。このコロナ禍においても同様の作品が増えている。しかし、アートはそこで立ち止まってはいけない。無意識を表現することがアートだから、意識で分かることからもう一歩、進む必要がある。

 いかがでしょう、実際には、もっともっと喋っていたので、演劇を志している方や、演劇を生業にされている方は、もっと衝撃を受けるようなアイディアを聞いたことでしょう。
 上に書いた部分では「生まれたときからそうだから演劇=チケット文化と勘違いしやすいが、そんなことはない」の部分は目からウロコでした。少し前に夫婦別姓に関する議論を見ていたときに、現在の家族制度は意外に最近の文化であると知りましたが、案外そんなものなんですよね。我々の周囲には、驚くほど「生まれたときからそうだったから、ずっとそうだった」という誤解がありふれているのでしょう
 また、最後の「無意識を表現することがアート」には痺れましたね。確かに、今だったら安易にコロナを創作に取り上げたくなってしまいますが、取り上げるべくは、そのさらに一歩も二歩も先にあるものであるべきで、目が覚める思いでした。
 そして、もうひとつ「これからの演劇は観光と紐付いてショービジネス化する」も「確かに」でした。私自身、今まで海外旅行したときは、現地のボードゲームショップやリアル謎解きゲームの店舗を訪ねていました。コロナがなかったら、昨年はロンドンに行ってイマーシブシアターを体験する予定でした。
 演劇だけでなく、リアル謎解きゲームやマーダーミステリーも「公演」という言葉を使います。海外からやってきた観光客に対して、日本の独自進化を遂げたリアル謎解きゲームやマーダーミステリーを提供する導線は、いずれきちんと整備されるべきでしょう。
 前段が長くなりましたが、以下、個別の作品の感想となります。

法政大学I部演劇研究会『インタビュー』

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 のっけから引き込まれましたね。
 記者と殺人鬼のリモートインタビューということで、ミステリ的にはよくある題材で好みと言えます。演出も優れていて、どちらかと言うと映画のワンシーンを見ているような印象でした。記者の方の朴訥な話し方に対し、殺人鬼のややオーバーな演劇が対照的で良かったです。
 個人的には全作品を通して、殺人鬼の方の演技がいちばん良かったと感じました。
 中屋敷法仁氏の劇団「柿喰う客」も気になりました。

on-line自宅部『死神』

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 古典落語『死神』を題材とした高校生たちのよる演劇作品。
 このご時世、死神もリモートワークするということで、言うなれば『死神2.0』のようなストーリーでした。自分でナレーションを入れることで時間経過を表現したりして、30分程の作品のはずでしたが、もっと長い作品という印象を受けました。また『死神』は呪文「アジャラカモクレン」を、ケレン目たっぷりにアレンジすることが多いので、歴代総理大臣の名前に変えたのは良い諧謔でした。
 私が落語好きというのもありましたが、いちばん気に入ったのでクラウドファウンディングの支援で入手した観客投票権は、この『死神』に投じさせていただきました。コロナ禍、リモートワークといった現代的な要素がよく反映もされていました。

劇団地方民『なりひとの成人式』

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 正直、終盤まで乗り切れなかった作品です。
 かつて上京というテーマは文学で死ぬほど扱われたものです。異なる立場へと身を移してしまったかつての友人がZoom越しに繋がるものの、表現しようのない距離感を自覚してしまう様子は、よく描けていると感じました。いわゆる無音の時間、台詞のない空気が良かったです。しかし、私のように住まいを転々とし、故郷を持たないタイプの人間からすると今ひとつ乗り切れませんでした。ただ、最後、ポンジュースからの畳み掛ける展開は不意打ちで、思わず泣きました。
 ところで、脚本を書かれた相原彩乃さんは、本作が初めての作品とのこと。鬼才では?

NEW SPROUTS『今日は誰かの最後』

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 全員が中学1年生という作品。
 二面性を持つ少女は、下の妹によく似ていて、前半は微笑ましい気持ちで見ていました。結末までの流れも素晴らしく、中学1年生にしてこの物語の完成度は素晴らしいなと感じました。
 審査員の中島信也氏が、個人賞を与えられたときのコメントが深かったですね。確かに4人の標準語は自然で、演技の最中、彼らが関西在住だとは予想だにしませんでした。しかし、オンライン演劇は空間を越え、既に東京から東京以外へと人が流れている現在、標準語でないことは大きな強みとなるでしょう。今回のオンライン演劇祭を最後に、演劇から足を洗い、社会人になる……という方も多い中、NEW SPROUTSの4人は大きな可能性があると言えます。是非、おおきく羽ばたいていただきたいですね。

劇団ふむふむ『ふむふむ家電カスタマーセンター』

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 脱力感のある劇団名からギャグ枠と思いきや、まさかの『インタビュー』を超えるサスペンス物とは……!
 固唾を呑んで見守るようにして見てしまいました。緊迫感のある作品で、ジャンル的にも好みでした。画面を支配する小川理沙さんの表情の豊かさと言ったら! 敢えて言うならば、妹と同じように、主人公にも何らかの形で救いが与えられていたならば……ですね。

終わりに

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 熱気のあるイベントでしたので、ついつい長く書いてしまいました
 全体を通しての感想としては、とにかく司会の鍛治本大樹さんが素晴らしかったです。広屋佑規さんと小御門優一郎さん、そして顔も出されなかった学生スタッフの皆さんもそうでしたが、とにかく「なにがなんでも盛り上げる! がんばってる学生のために華を添えまくる……!」という気負いが見えて良かったです。特に17時50分に予定されていた結果発表が30分近く伸びたときですかね。一切の不安顔を見せることなく、まったく動じずに繋いでみせたのはプロの仕事でした。
 後、個人的にはオツハタさん推しなので、オツハタさんが画面に出てくるたびに、つられて笑顔になってしまいました。あのひとマジでいい笑顔すぎるんですよねえ……。
 最後に……いまは、ただ第2回『全国学生オンライン演劇祭』が楽しみですね。