ループものに関して論じた浅羽通明『時間ループ物語論 成長しない時代を生きる』を読みました。
興味深い内容だったので感想を書きます。
本書の概要
本書は、著者の浅羽通明氏が、2010年と2011年に、早稲田大学非常勤講師として務めていた際「日本現代文化論」として行なった講義の一部を書籍化したものです。
元々、講義であったことから、全文が若い学生に語りかけるような口語体になっており、読みやすいです。
全12章、恒川光太郎『秋の牢獄』に始まり、『エンドレスエイト』、『恋はデジャ・ヴ』、『ひぐらしが鳴く頃に』、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』をなぞりつつ、後半は『ファウスト』、『浦島太郎』、『芝浜』、『デス博士の島』、夏目漱石に移り、現代日本の世相や社会問題を指摘する論調でした。
どちらかと言うと、ループものの研究というより、ループものが流行った背景や、その理由を探っていく、に近いかもしれません。
感想
いままでに東浩紀、榎本秋、前島賢、飯田一史、宇野常寛……批評家による言説は、けっこう読んできましたが、本書は従来のそれとは一線を画すと感じました。
上述の通り、ループものを通して、現代の文化を見るのが主題なので、主語がループものではないんですよね。この点が非常に印象的でした。
したがって「面白いループものを知りたい」という気持ちに本書は応えてくれません。むしろ、けっこうネタバレされるので注意が求められます。
どちらかと言うと「何故、ループものが流行ったのか」そして「何故、ループものが廃れたのか」が見えてきます、そういう本です。
全体的に納得度が高かったです。
わたし自身、ループものを偏愛していますが、その原体験は『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(1996年)であり、『歌月十夜』(2001年)です。
それからループものを心から愛するようになり、ありとあらゆるループものを嗜んできましたが、それは、やはり心の底に「人生をやりなおしたい」もしくは「あのとき、ああしていれば」という後悔があるからでしょう。
もう、だいぶいい年齢なので、いつまでもループの空想にハマっているわけではありません。ここ10年くらいは、どちらかと言うとループものという概念そのものが好きになって、半ば研究心からいろいろ触れています。
終わりに
ライトノベルが現代学園異能からハーレム、俺TUEEE、異世界転生、追放ものと、その時々の世相を反映するように流行が推移していくように、ループものも既に時代遅れの展開と言えます。
今回、多様な視点から、改めてループものを見ることができたのは、とても良かったです。