ヴァニラソフトによるアドベンチャーゲーム『十三機兵防衛圏』を遊びました。
ネタバレ全開なので未プレイの方は回れ右推奨です。
『十三機兵防衛圏』を知ったきっかけ
『十三機兵防衛圏』の存在は、電ファミニコゲーマーさんの記事です。
こちらは、ネタバレなしの記事なので、未プレイ方でも安心して読めます。
物語の内側については、それほど言及しておらず、主に本作の構造について語られています。本作は、その構造こそが素晴らしいとわたしも思っているので、記事としても納得度が高いです。
『十三機兵防衛圏』について
結論から言うと、わたしのなかでは佳作と傑作の中間くらいです。
ただ、これは、あくまで主観に過ぎず、客観的には傑作と絶賛するに足るほど挑戦的ですし、画期的だとも感じました。
また、プレイした時期によるところもおおきいでしょう。
わたしは『高機動幻想ガンパレード・マーチ』と『スターオーシャン セカンドストーリー』が大好きですが、それは学生時代に遊んだからかもしれません。今なお傑作と信じていますが、思い出補正の影響は否定できません。
もし、学生時代に『十三機兵防衛圏』に出会っていたら、きっとこの世界観に首までどっぷり浸かり、人生観をガラリと変えられてもおかしくないと感じます。
それだけの熱量のあるタイトルでした。
遊べて良かったです。
13人の主人公による非連続のストーリー
アドベンチャーパートにおいて選択できる13人の主人公は、いずれもひとつのゲームにおける主人公としてキャラが立っており、誰一人として脇役感がありません。
敢えて言うなら、鞍部十郎は主人公のなかの主人公という風格がありますし、冬坂五百里はヒロインのなかのヒロインという存在感ですが、猫と契約して魔法の銃を手に入れる薬師寺恵は世が世なら魔法少女物の主人公ですし、謎のロボットを拾ってMIBから逃げ回る南奈津乃はハリウッド映画なら主人公です。
他のキャラたちも、ひとりひとりがそれぞれの物語の主人公で、『十三機兵防衛圏』というおおきな物語を形成する、なくてはならない登場人物たちです。
(個人的には、ひとりだけガチでタイムループする緒方捻二があって好きです。何度、やりなおしてもあの夕暮れのホームに押し戻されるのには、凄まじい絶望感と閉塞感があり、きっと緒方捻二でなければ耐えられなかったことでしょう)
そんな主役級13人の物語は、1エピソード数分程度にこま切れにされ、しかもまったくもって連続していません。
1985年で授業を受けていたと思ったら、2025年の出来事を回想し、2188年の会話ログを閲覧します。
いったい時間軸は、どのように歪んでいるのか?
はるか未来において地球に襲来してきた怪獣によって人類は滅ぼされ、怪獣に対抗するため、人類は過去へと逃げ、怪獣もまた人類を滅ぼし尽くすために過去に遡っているのか?
断片的な情報から、なんとか物語を想像し、必死になってつじつまが合わように想像力をふくらませていきます。
この、物語を想像させるという体験、これ自体が本作の素晴らしくも面倒なところですね。
一直線ストーリーのメリットを放棄する断片化
通常の物語は一直線です。
はじまりからおわりまで一直線に、起承転結の流れに沿って進みます。
物語の起伏は計算されており、読者/プレイヤーがどこで驚きを覚えるか、どこで感動するか、すべては用意されています。
一方、本作において、どの物語を、どの順番で進めるかは、プレイヤーの手に委ねられています。
他のキャラクターのストーリーを、ある程度、進めないと、キーとなるキャラクターのストーリーがロックされ、続きが遊べなくなるという制約はありますが、体感では、絶えず3つ以上の選択肢が用意されており、物語の流れに沿って伏線を先に見てから、種明かしに触れることもできれば、その逆もあるように感じられました。
つまり、先に種明かしとなるエピソードを見てから、後から本来であれば伏線として機能するはずだったシーンを見るケースもあるわけで、この逆転は非常に新鮮に感じました。アドベンチャーゲームにおけるゲーム性の新たなる形、選択することの奥深さを感じました。
物語を断片化して、断片のまま読者に提供して、読者の頭のなかで再構築してもらう。
こういった形式は小説の歴史に少なくありませんが、断片化されたピースに触れる順番まで含めてプレイヤーに提供、それもこの規模で、というのは過去に類を見ないのではないでしょうか。
この断片化は本作の最大の魅力であると同時に、プレイヤーを選ぶ要素でもあるなと感じました。
実は、本作を遊ぶにあたって、あまりに多くの方からオススメされた結果、遊ぶ前から自分のなかで期待値をとても上げてしまっていました。なんならPS5が欲しかった理由が、当初、PS4でしか発売されていなかった本作を遊びたかったから、だったくらいです。
しかし、実際に遊んでみると、とにかく引きが多いことに辟易しました。
魅力的な謎が次から次へと提示されますし、各主人公のストーリーも魅力的なので、続きが気になるのですが、提示された謎に対して答えが与えられないまま、次の展開に入っていくので、けっこうフラストレーションが溜まるんですよね。
正直、2~3時間、遊んでもチュートリアルが終わらず、序章が終わってもいないように感じられたときには遊ぶのを止めようかと思ったくらいです……。
プレイヤーに物語を選ばせるというデザイン
手前みそで恐縮ですが、わたしが断片化された構造に深く興味を持ったのは、わたし自身がそういった創作に可能性を見い出していて、いくつか手掛けてきたからです。
2009年5月5日のコミティア88で『PNOS』という作品を頒布しました。
NScripterというスクリプトエンジンで作ったノベルゲームで、キャッチフレーズは「読むRPG」でした。イメージしていたのは『ロマンシング サ・ガ』の小説版です。主人公が複数人いて、主人公ごとにシナリオが用意されていて、プレイヤーは好きな順番で、好きな主人公のシナリオが読める形式でした。
販売方式は『ひぐらしのなく頃に』と同じく、イベント出展のたびにシナリオを増やしていって、最終的に100シナリオくらいゲームを作ろうと考えていました。
もっとも、すぐに方針転換して1シナリオ1主人公として、最終的に2011年11月29日のコミックマーケット81に、11人の主人公による11シナリオを収録した完全版を頒布しました。最初のコンセプトを、最後まで貫いていたら、もっと違った作品になっていたことでしょう。
その次は、2019年11月23日にゲームマーケット2019秋で委託販売した『修道院はどこに消えた?』です。
これは30枚のカードに情報が断片化され、裏向きにされたカードを好きな順番でめくりながら情報収集して、真相を解き明かすゲームです。
30分という制限時間のあるゲームなので、だいぶコンパクトなものですが、デザイナー目線で、プレイヤーがどの順番でカードをめくるのか分からない、制御できないという挑戦を抱えています。
『十三機兵防衛圏』とは比較できないほどスケールが異なりますが、模索しようとしている方向性は近しいのでは? と、勝手に親近感を抱きました。
遊ぶべきゲームであることは間違いない
スキあらば自分語りするような、自分大好き人間で申し訳ない。
話を『十三機兵防衛圏』に戻しましょう。
ここまで何度も言葉を重ねたように、本作の構造は、とてつもなく革新的です。
そして、このシステムがストーリーと見事に合致している点が、また素晴らしいです。物語全体が多層的と言うか、各主人公たちの物語が、それぞれ有機的に連結しているのは、このシステムでなければ表現できません。
ストーリーが先にあって構造が考えられたのか、この構造のために各主人公が割り当てられたのかは分かりませんが、いずれにせよ発明レベルのデザインと言えます。
日本文学の歴史を超ざっくり辿ると、竹取物語や源氏物語にはじまり、土佐日記や平家物語と発展していきますが、二葉亭四迷が『浮雲』で実現した言文一致によって、一気に裾野が広がります。
わたしはアドベンチャーゲームやノベルゲームも、小説の系譜で見ることができると考えていますが、本作は『ポートピア連続殺人事件』や『かまいたちの夜』と同じクラスのターニングポイントとなる作品だと感じました。
2019年の発売当初にこそ触れられませんでしたが、Switch版発売のタイミングですぐに遊ぶことができてほんとうに良かったです。オススメしてくださった皆さんに感謝です。
終わりに
長くなりました。
振り返ってみましたが、システム面ばかりに言及していて、あまりストーリーの中身には触れてませんでしたね。
クリアに要した時間は26時間。ほぼ毎日、Switchを起動して1週間ほどで駆け抜けました。好きな設定、好きなキャラ、好きなシーンは山ほどありますが、やっぱり各キャラの最終エピソードは盛り上がりますね。機兵起動、からのTo the last Battle...は好き過ぎてYouTubeのまとめ動画を何度も見てしまいます。ちょっと仮面ライダーの変身シーンに通じるところがありますよね。
いちばん好きな機兵起動は南奈津乃ですかね。いや、どちらかと言うとBJの方ですが……。