グループSNEより発行された、L・E・ホール『あなたも脱出できる 脱出ゲームのすべて』を読みました。
非常に充実した内容で、読んでいる最中、まさにわたしのためにある本だと感じました。素晴らしかったので感想を書きます。
本の概要
本書は「脱出ゲームの世界へようこそ」と「脱出ゲームの道具箱」の2部構成になっています。
第1部では「脱出ゲームとは?」という問い掛けに答えるため、古代エジプトや古代ギリシアから現代に到るまでの流れが俯瞰されています。
第2部では脱出ゲームの要素が解体され、まさにタイトルの「あなたも脱出できる」の通り、謎解きの攻略法が列記されています。
本の感想
最初に述べておきたいこととして、本書は謎解きに限らず、リアル体験型ゲームに携わっている方や、その歴史について言及する機会がある方にとっては必読の内容です。
安田均さんの監修者あとがきを読むまで気づかなかったのですが、著者のL・E・ホールさんはNHKプライムの「謎の日本人サトシ~世界が熱狂した人探しゲーム」に登壇したローラ・E・ホールさんで、まさしく海外においてその道の専門家です。内容について絶大な信用を寄せて良いと言えるでしょう。
本書を傑作たらしめているのは、なんと言っても第1部の存在です。
「古代エジプトや古代ギリシアから現在に到るまで」と書きましたが、脱出ゲームを、ただのイベントゲームとして捉えず、人類の歴史に寄り添ってきたエンターテインメント文化の、ひとつの形として多角的に捉えており、ときにゲームとして、ときにアトラクションとして、ときにテーマパークとして、その在り方を定義しています。
今でこそ脱出ゲームは世界的な遊びで、どこの国でも謎解きが遊べる店舗が存在しますが、その興りが日本であることは、日本国内でリアル脱出ゲームを遊んでいると、知る機会が多いです。しかし、海外においてSCRAPの知名度は低く、わたしが海外の謎解き施設で「SCRAPを知ってるか?」と聞いても「知らない」と答える方ばかりでした。
そんな中、本書ではSCRAP加藤隆生氏の名前はもちろん、『クリムゾン・ルーム』の高木敏光氏の名前まで、きちんと網羅されています。
なんと信頼が置けることでしょうか……!
内容は体感としては知っていること半分、知らないこと半分でした。
しかし、系統立てて説明されているので、とてもしっくり来ましたし、分かりやすく納得度が高かったです。
また『Immersive Entertainment Industry Annual Report』を読んだときのことを思い出しました。2019年時点でイマーシブエンターテイメント事業は618億ドルという市場規模ですが、その内訳を見ると、その約85%はテーマパークです。ただ、残り15%の中に脱出ゲームが6.5億ドル市場として取り上げられており「そうか、海外において脱出ゲームとテーマパークは、似たジャンルなのか」と感じました。
本書においても脱出ゲームとテーマパークや、そこにあるアトラクションは近接ジャンルとして扱われており、海外ではそのように認識されているのだということを肌で感じた次第です。
第1部の資料価値と比較し、第2部は、個人的には冗長でした。
脱出成功のためのテクニックや、暗号や謎解きの種類をつまびらかにしているのですが、そのほとんどが既知の内容で、新たな発見としては「海外の謎解きはダイナミックなものが多く、細かい謎解きや暗号は少ない印象だったけれど、案外、日本と同じような小謎もあるんだな」くらいでした。
感覚的には手品のタネ明かしを延々と見せられるようで、前半だけで良かったのに、とも感じました。
終わりに
第2部に関しては、やや思うところがないでもないですが、こと第1部に関しては手放しで絶賛できます。
繰り返しになりますが、リアル体験型ゲームの歴史について言及する機会のある方は必読です。