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成功事例の舞台裏ビジネス書『PIXAR』の感想

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 ローレンス・レビーの『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』というビジネス書を読みました。
 サブタイトルに「お金の話」と入っていますが、原題は『To Pixar and Beyond: My Unlikely Journey with Steve Jobs to Make Entertainment History』なので、意訳すると「PIXARの彼方へ、さあ行くぞ。~私とスティーブ・ジョブズのエンターテインメントの歴史を作り上げた驚くべき旅路~」みたいな感じでしょうか。お金の話も含まれますが、全体的な流れは彼らの成功譚なので、ピクサーやトイ・ストーリーの舞台裏が見られる、というのが本書の主眼です。

本書のあらすじ

 著者のローレンス・レビーは、ピクサーの元最高財務責任者です
 シリコンバレーの弁護士から会社経営に転じた後、スティーブ・ジョブズから1本の電話を受け、ピクサーに入ったという奇異なる経歴を持っています。
 そんな彼が、ピクサーで短編映画の『ルクソーJr.』や同社の出世作となった『トイ・ストーリー』の冒頭部分を見て、煌めく原石の輝きを感じとり、入社を決め、その躍進のために奮闘する……というお話です。
 ちなみに『ルクソーJr.』は、電気スタンドのキャラクター名でもあって、ピクサーのロゴにもなっているあれです。

本書の面白味

 ローレンス・レビーは、エンジニアでもアーティストでもないので3D映画に関する技術や芸術的な要素については、あまり言及されていません。
 その代わり、本書で書かれているのは、いかに傍若無人の化身たるスティーブ・ジョブズを制御したかであるとか、ピクサー社員がそのクリエイティビティやアーティスティックさを遺憾なく発揮できるようにお膳立てしたか等、ピクサーという会社の舞台裏を見ることができます
 平易な表現をすると、マネタイズの大事さ、でしょうか。
 言うまでもなく、良いものさえ作っていれば世間は評価してくれる、は幻想です。お金を使い、良いものを作り、その上で、それをどう守りながら、世間にアピールしていくかが重要なわけで、この、守るとアピールの部分が、本書においてじっくりと描かれています。
 そういう意味では、ピクサーの仕掛け人、影のプロデューサー、と言ってもいいかもしれません
 私は、わりと壇上で輝いているスターよりも、そのスターをそこに立たせた、縁の下の力持ちの方が好きだし、その活躍を見たいタイプなので、本書はとにかく興味深く、興奮の連続でした。

ローレンス・レビーの現在

 赤字を垂れ流すだけだったピクサーの上場を実現し、数十億ドル規模のエンターテイメント企業にさせ、ディズニーへ売却した後、彼が選んだ第2の人生は、会社員生活ではなく、東洋哲学と瞑想を学び、社会や人生とどう向き合うかという哲学的な領域でした
 その生き方を選んだときのジョブズの反応を、とても興味深く感じたので紹介させてください。

「言いにくいことなんですが、そろそろ、日々の業務から離れてほかのことをしようかと思っています」
 私の言葉を聞いたスティーブは、特に驚いた様子がなかった。ピクサーの基礎がしっかり固まり、私がやらなければならないことが減ったのを承知しているからだろう。
「なにをするつもりなんだい?」
「人の幸せに関する哲学や東洋思想を学びたいと思っています。それを現代の生活に活かす方法も」
(中略)
 次にスティーブの口から出た言葉は忘れられない。
「我々のなかからそういうことをするやつが出てきてうれしいよ」
 どういうつもりでこう言ったのだろう──このあとずっと、そう考えている。

 スティーブ・ジョブズの半生を考えると、感慨深いですね。
 この後、著者はジュニパー基金を立ち上げ、現代の生活に合わせて生き方を示す活動をしています。そのサイトはこちら。

 著者自身もサイトを持っており、今までや現在の活動が紹介されています。

感想

 既にだいぶ書いたので、蛇足の感は否めませんが、もう少しだけ。
 アメリカでの『トイ・ストーリー』の封切りは1995年11月。当時はカリフォルニアに住んでおり、ロサンゼルスの映画館で見たことをぼんやりと記憶しています。子どもだったこともあり、3D映画という技術に驚きはせず、単純に、子どもの目線で、シンプルに楽しく受け取りました。
 ピクサーの作品を見たのは、後にも先にも『トイ・ストーリー』だけですが、本書を読んで、久しぶりに『トイ・ストーリー』を見返したくなりましたし、その続編は他の作品も気になりました。
 特に『ルクソーJr.』は見たいですね……と思ったら、わずか2分の作品で、しかもニコニコ動画にあったので早速、見てました。

 うーん、いいですね!
 ピクサー本社の一室、映写機がカタカタ鳴るなかで、これが何度も上映されたことを思うと、ちょっと感慨深いです

終わりに

 なんの気なしに読みましたが、とにかく面白かったですし、勉強になることも多かったです。オススメの1冊です。