雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

1-01-01から1年間の記事一覧

GOD SAVE THE QUEEN

ああ、神様……どうか、私をお導きください。私は生まれてこの方、一度足りとも成功したことも勝利したこともないのです。勝負ごとには必ず負け、合否の分かれ目では必ず敗れ、涙を飲んでばかりなのです。今まで私は、これをそういう運命の星の元に生まれてき…

ORANGE RANGE

遠くでカラスが啼いていた。 黄昏色に染まったあぜ道を歩きながら、そっと背後の気配をうかがう。 人影は、ない。 「なあ、知ってるか。日が落ちるまでに家に帰らないと。怪人☆ミカンが出るんだぜ!」 直前まで共にいた、ともだちの言葉が思いかえされる。 …

WHAT’S DONE CANNOT BE UNDONE

ガラと玄関の戸を開くと、取っ手が外れた。 仕方がないので、中に入ってから勢いをつけて閉めようとしたら、蝶番が外れて戸は外側に倒れてしまった。 首を振って戸を諦め、上がりこんでみれば廊下が傾いていることに気づく。 軋む廊下を進み、自室の前につく…

COLOSSEUM

人に見られながら戦うのは、それほど嫌いじゃない……、円形の闘技場の中にあって戦う自分を客観的に観察、そして分析することで、勝利を演出しやすくなる。そう、俺は剣奴――グラディエイター。 俺の得物はシュタットレイス。俺はこの、剣奴に似合わない、両手…

READ OR DREAM

私はずっと小さな頃から、本が好きだった。小説やエッセイといった読み物に限らず、活字全般が好きで、辞書や教科書を眺めているだけでも楽しかった。けれど私の家は、あまり裕福ではなく、本を買う余裕もなければ、電車に乗って大きな図書館に行くこともで…

JUNK BOX

綾織燕がまだ駆けだし作家だったころ、彼女は担当編集者から「次に会うときまでに、長編用プロットを最低十作分、作っておいてください」と言われた。 ――貴女は次に書く一作を成功させ、その次の一作を書ける権利を得なくてはなりません。そのためには、一作…

FIRST IN LAST OUT

歌姫アリア。 その歌声には耳を傾けるものの心を癒し、傷つき倒れんとするものに手を差しのべ、万人に涙と感動とを誘う、不思議な魅力があった。 ときの王はアリアの、この力に目をつけ、戦場で兵を鼓舞する歌を歌わせた。一騎の兵を千に当たる軍神に仕立て…

META-META

緋踏探偵事務所から派遣され、やってきた夕賀恋史は、颯爽と事件現場に現れると、洗練された動作で犯人を指差し、見事な離れ技で密室トリックを破り、懇切丁寧にアリバイを崩し、完膚なきまでに事件を解決した。そしてその上で、 「真の探偵とは事件を未然に…

IRREGULAR’S PARADISE

「ようこそ、海上移動図書館《ピースメーカ》へ!!」 セーラーを着た厳つい男に案内され招かれたのは、あの懐かしい図書館であった。本が傷まないように外気は完全に遮断され、潮のきつい匂いは、ここまで入ってこない。紙とインクと埃の香りだけがある。何…

YET SUN GOES DOWN

放課後の教室。夕陽が差しこみ、机に反射した光が黒板に幾何学的な紋様が躍っている。 体操服を着て、教壇の上に寝転がっている男子と、制服姿の女子が話をしている。女子は机に向かっていて、マークシートに鉛筆を走らせている。手許には大学コード表が開か…

CLOCK END

「困ったものだ……」 男は腹から血を流し、道の真ん中に倒れ、事切れていた老人を、脇の土手の上に放ると、そこで「南無阿弥陀仏」と唱えてから十字を切った。次いで、懐から出したペンで老人の腕に戒名を書いてやった。道で腹から血を流して死んでいたから「…

GHOST WRITER

テレビに映っている洒落小路雪麿は、スポークスマンである。 世間では、表に出てくるスポークスマンの洒落小路雪麿が、裏に隠れたままの本物の洒落小路雪麿と大親友であり、ふたりして小説のネタを出しあったりして協力しているから、インタビューにも答えら…

SOMEWHERE OVER THE RAINBOW

「こら! 勝手にシキサイしちゃいけないって、先生、前にも言ったでしょう」 「あははー、ごめんなさーい」 ぶん、と唸りをあげて迫る先生の腕を避け、天道貴志は階段を駆けのぼった。 三階分を駆け登ったところで、息が切れた。先生が後を追ってくる様子が…

DRAGON QUEST

勇者は老齢であった。 無人の地下道を抜け、荒れ果てた古城を越え、急峻な山道を行き、勇者はようやく竜王の元にたどり着いた。 山頂でいびきをかいていた竜王は、勇者の来訪に気付くと、目蓋を重そうに持ちあげ、勇者と話ができるように、勇者の声がよく聞…

DIE VERWANDLUNG

ある朝、霧崎夜辺がなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の中でひとりの殺人鬼に変わっているのを発見した。外見にはなんの変化もないし、夜辺の部屋は就寝前となにも変化がないように見える。その部屋の中で、夜辺の中身だけがどこか決定的に変…

FINAL FANTASY

何かの拍子にベッドから落ちてしまったのだろう。赤毛の人形は、明かりの差しこむことのない、狭い隙間に身をうずめている。もうどれぐらいそうしているだろうか。日めくりカレンダがめくられる度に立てる、かすかな紙の音も数えるのを止めてしまって久しい…

DEAD LINK

「例えば私が日頃生活している空間。世界全体から見れば極めて限定的で狭い空間ではありますが、それが私の目が届く範囲、手が伸ばせる範囲、それが私の世界となります。そして私が私の世界を持っているように、貴方も貴方の世界を持っており、そこの貴方も…

BI-BICYCLE

苦行だ。 苦行などしたこともないが、高橋はそう思った。そして同時に、今が冬で、気温がそれほど高くないことに深く感謝した。 とにかく想定外が多すぎた。今までに人がやった話や、テレビで映像を見たことがあったが、まさかこれほどまでに辛く苦しいもの…

MOON VIEWING

夜の海は墨汁のように黒く、水面は極限まで研磨された鏡のように月明かりを跳ね返していた。ときおり、波が白い線条を刻み、それは覗きこむ希を深海の底へと誘うかのように揺れた。 海面から目を逸らさぬまま、希は手許のワンカップを傾け、わたつみに酒を捧…

FIRST YEAR GREEN SPRING

掌編小説でもなく、ショートショートでもない。 超短編というジャンルがある。 俳句のように季語を組みこむ必要はない。 詩歌のように韻を踏む必要もない。 ただ一つの制限と言えば。 五〇〇文字以内で書くということ。 原稿用紙、四分の五枚に収まる、とて…

DOCTOR IN ETERNAL ROOM

「それは先生が後にご自分の理論を覆されるかもしれないと、そういうことですか?」インタビュアーは目を丸くして訊いた。 「そこまでは言っていない」カメラの前で、博士は手を振った。「人の思考とは絶えず変動するものであり、意見は時と場合とに左右され…