雲上ブログ〜謎ときどきボドゲ〜

オススメの謎解き&ボードゲーム&マーダーミステリーを紹介しています

1-01-01から1年間の記事一覧

STOP IN THE NAME OF LOVE

午前二時。 都会が放つネオンを受けて、空は仄かな白を残していた。星は見えない。 絶えることのない喧騒が身体を縛りつけ、凍てつく空気が咽喉を冷やし、声を奪う。 「……ッ」 擦れ声しか出ないけれど。 叫びたい名前がある。 北極に立って、その名前を大声…

GUARDIAN_02

静かな森に身を清められた番人が立ち尽くしていた。 その前には鉄鎚を持った女性。 「私は風雅使いの朱香月朱巳。これから貴方を完成させるわ」 薄く紅の差された形のいい唇で笑い、朱香月朱巳と名乗った女は鉄鎚を番人の下半身が眠る石塊に振り下ろした。 …

GUARDIAN_01

褐色の雑草が敷きつめられた煉瓦の隙間から顔をのぞかせている。 背の高い雑草の幾つかは、煉瓦を割って生えているようにも見えるが、実際は雑草にそこまで力はなく、煉瓦は風化して割れたのだ。 一匹の猫が歩いていた。 闇の雫で染めたような黒い毛並みに、…

A KISS

「行こう」 その言葉に、五十嵐慎吾は驚いて振り返った。 彼の眼前で、村上智佳はのほほんと立っている。どうして五十嵐が驚いているのか理解できないかのように、首を傾げてさえいる。五十嵐は唾を飲んだ。 「この先にあるのは永遠の砂漠だ。這入ったが最後…

I-MY-ME_04

と、迷っているそぶりをしてみたりして。実は答えなど決まっている。ここに呼び出された時点で決まっている。ただ、少しだけ意地悪に。 「条件があるけど、いい?」 「うん」 「自分のことを、私、って言うのはやめて。やめたら、付き合おう」 君は少しびっ…

I-MY-ME_03

僕は間をおいて、ゆっくりと答えた。 「多分」 「もう」 なにがもう、なのかは分からないが、君が僕と同じ、美味しいものは最後まで取っておく派であることは、分かった。つまり、美味しいものを取っておくことで、苦しいものから手をつけることに我慢できる…

I-MY-ME_02

それはさておき、僕は給食に美味しいものが出たら、最後まで取っておく派だ。大貧民では強いカードを最後まで残しておくし、電車では敢えて最後に乗り込む。勉強は英語から初めて、数学、理科、社会、そして国語だ。 僕は空に目を向ける。 君が見ている空と…

I-MY-ME_01

「どうして、空はこんなにも美しいのに、誰も見ようとしないんだろう」 「見てるじゃない。僕らが」 放課後、屋上に呼び出されてみれば、君は金網に引き寄せられるようにして夕陽を眺めていた。西の空に掛かる雲は、下の方が緋色に上の方が藍色に彩られてい…

LOST MAN

「嵐は過ぎ去った。船は壊れていない、しかし海図はどこかに吹っ飛んだ」 ぼくは、ぼくに報告した。 「羅針盤は飛んできたワインボトルでずれて、方位磁石もどこかに消えちまった」 ぼくも、ぼくに報告した。 「さて、どうしようか」 ぼくは、困る。 夜の大…

KNOW FAITH

目の前には、延々と連なる茨の道。振り返れば、茨を踏み抜いた足から流れ落ちた血が、点々と続いているのがみえる。もうふくらはぎから下は、すっかり血にまみれていた。一歩、踏み出すたびに突き抜ける激痛、噴きだす血と共に力も抜けてゆき、膝を突いてし…

FUGA

「時よ止まれ、時よ止まれ。今この瞬間よ、永遠となれ!」 高らかに、朗らかに。声を張り上げて、歌いながら、しなやかな指を鍵盤に叩きつける。 打鍵、打鍵、また打鍵。 どう見てもデタラメにしか打っていないのに、旋律は次から次へと繋がり。さながらエネ…

BLANKET OUT

現世と電子の海の境い目を任せられし守護竜。その竜は境界線を意味するボーダの名で呼ばれることもあれば、陰陽師が使役する式神になぞらえて夢現式と呼ばれることもあれば、ただ単にケモノと呼ばれることもある。 さて、ここにひとりの男がいた。彼は現世の…

A HAIL OF CLOUD

この世をどこまでも東に歩いたところと、どこまでも西に歩いたところに雲を吐きだす工場と、それを世界中に散らす巨人がいる。巨人は工場から濛々と吐きだされる雲を掻き集める。左手に持った雲の塊から無造作に切れ端を千切り、東の巨人は西の方へと、西の…

AFTER THE END

夜も更け、馴染みのラジオ番組も終わりを告げる刻限――娘は、静かに自分の身体を抱きしめた。 その晩もそれはやってきた。心の奥底に封印しきることができず、漏れ出してしまう誰かを恋しいと思う気持ち。独りでいることが我慢できなくなる夜がやってきた。 …

BEGINNING OF THE BEGINNING

「それは甘い展望だと言わざるを得ないな」濃紺のコートをひるがえして男は言った「君はその鋼鉄の精神と不屈の魂で僕を説得した。僕が君の手駒でいる限り君の進む道は、しっかりと舗装され、石橋は叩く必要もない。しかしね、牙は研ぎつづけなければ、いず…

WATANUKI HIME

「案ずることはない、我がそう安々と死ぬわけがないではないか。今は暫しの小休止を取っているだけじゃよ」老婆は口元を歪めつつ、嘯いてみせた。 その堂に入った仕草を見て、殺伐屋はスゥと目を細めた。蒲団の中に痩せ細った身体を、横たえている命の恩人は…

LIAR LIE LIE

嘘吐きは鷽、啄木鳥、吐きつつ嘘突き筒。 筒抜け、嘘衝き、騙し騙され、来つ尽き。 撞きつつ嘘跳ね、落ち抜け穴空き、虚き。 移ろき、現、銃うそ突き付き、宇楚通来。 月喫、来つつ、詰着つつ、嘘突き突付き。 突付き付き付き突付き付き、嘘嘘嘘吐き。 尽き…

IN ACTUAL FACT

「嘘だ……」 魔法使いは呟いた。 伝説の剣を携え、伝説の鎧に身を包んだ勇者が、魔王の一撃を受けて倒れていた。その隣には身を呈して勇者を守ろうとした若き僧侶も倒れている、聖水を振り掛けた彼女に魔王は触れられないはずだった。魔王の背後に回り、勇者…

NO MORE LIE

新婚の夫婦が寝床を共にしている。 妻が囁く。「ねえ、貴方。私たち、夫婦の間では一切、嘘をつかないようにしましょうね」 妻の髪を撫でていた夫は、その言葉にどう返すべきか迷うように手を開いたり閉じたりしたが、やがて「うん、そうしよう。僕は君に嘘…

LIE DETECTOR

そこは嘘をつくと殺される村。遠い昔にやってきた商人が置いていった「嘘発見器」が村の真ん中に鎮座していて、ひとつでも嘘をつくとすぐにそれが反応し、すぐに村人が集まってきて、すぐに殺されて家畜の餌にされてしまう。 そうと知らずにやってきて、砂嵐…

PSYCHO READING

すっかり酔いが回り、足許が覚束なくなっていた。当然、いきなりにやってきた自転車を避けられるわけもなく。衝撃に吹き飛ばされ、視界は暗転した。 気がついたとき、視界は四角に区切られ、世界は縦に細長くなっていた。身体は少しも動かせず、視界を上下左…

PHOENIX

「行け、紅蓮の鳳よ。薙ぎ払え」 魔法使いの手元、開かれた書物が突然の強風にあおられたようにページがざわめきだち、そのうちの何枚かが、飛びたつように千切れて虚空に舞いあがった。かと思うと、それらは中空で鳥のかたちを為すと、焔の鱗粉を散らして戦…

ENGINE AND RYDEEN

炎神はブルルと身体を震わせると、カッと目を開き、その身を打ち付けていた雨粒を蒸発させ、毛の先に至るまでを瞬間的に乾かせた。 炎神は風雨の吹き荒れる海岸に立っていた。騒めく海上には、雷神が牙を剥いて威嚇していた。その青白いたてがみは、ときおり…

CORRUPTION

沈んでゆく、沈んでゆく。闇の中を沈んでゆく。 そこは底なし沼、終わりなき旅。いつまでもどこまでも、延々と、飄々と、どこまでもどこまでも、いつまでもいつまでも。沈んでゆく、沈んでゆく。 嘲笑と罵声をBGMに、落ちゆく自分を俯瞰する。 腐れきった…

DA CAPO

夕賀恋史は顔を上げて壁に掛かっている時計を見た。針が指し示していた時刻は、彼が頭に思い描いていたものと全く同じだった。握りしめていた拳を解きはなち、彼は部屋を出た。 屋敷の間取り図は既に頭に入っていた。夕賀恋史は一片の迷いすら見せず、最短距…

PEACE MAKER

海上移動図書館《ピースメーカ》は凪いだ海上を漂っていた。潮風は微塵も吹いておらず、さざ波ひとつない海面は限界まで研磨された鏡のように、静謐を保っていた。 《ピースメーカ》には書物と、それを快適な状態に保存するための設備しか積まれていないので…

SPECTACLE TOWER

陰鬱な暗がりから暗がりへと。塔の中は薄暗かった。外は曇っているのか、窓から月明かりが差し込むことはなく、ただ湿った風だけが吹き込んでくる。手にしている蝋燭から、蝋が滴りおちる。ポタリポタリと、まだ熱を持っている混濁した白色は橙色の灯火の下…

FLOOD OF STAR LIGHT

空から降ってきた一万の爆撃が、夏目草薙から故郷を奪った。 草薙はかつて自身が住んでいた土地の入口に立って、見渡す限りの荒野と、地平線まで見渡せてしまうその事実に失笑した。「まったく、とんだお笑い種だ」肩を竦めてから、草薙は額に巻いていたバン…

NEW YORK

未完成の都市。 その都市にある建築は、日夜、成長を続けている。仮にホテルの最上階に部屋を取ったとしても、朝を迎えたときにその部屋が最上階のままであるとは限らない。誰が工事をしているという訳でもないのに、その都市の建築物は、いつの間にか増築さ…

COMIC

『犯罪予告状』 今年、千二百個の密室で、千二百人が殺される。誰にもとめることはできない。 密室先生。 出来上がった文面を見て、密室先生は淡く微笑んだ。既に千二百人を密室で殺すための計画は完成していた。後は、それを実行に移すだけ。犯罪計画書は五…